肥満細胞腫とは・・・

1 概要

肥満細胞腫とは、動物が太っていることによりできてしまう「癌」ではない。
「肥満細胞」という免疫を担当している細胞が、突然勝手に増えて塊になったもので、
この細胞は人間でも身体の中にも存在し、アレルギー症状(花粉症など)を起こしている細胞である。
しかし人間では塊にはならず、「癌化」はしない。

犬の皮膚の悪性腫瘍中の7〜21%を占め、簡単な切除では再発・転移を繰り返す厄介な腫瘍である。
犬の肥満細胞腫は年齢および全犬種で報告されているが、ボクサー・ラブラドール・ゴールデンなどは多発傾向がある。
パグの肥満細胞腫は、約50%の確立で多発性肥満細胞腫と診断される。
発症平均年齢は8.5才、発生しやすい場所は、後ろ足、腹胸、前足の順と続く。

肥満細胞腫は一般に、まず局所リンパ節に転移し、その後、脾臓、肝臓、腸間膜リンパ節、
その他の皮膚領域、骨髄へと転移する。 
肺転移部位はまれであるが、進行した転移性肥満細胞腫の症例の中には、胸水や腹水を発現するものもみられる。
癌細胞がリンパ節に転移する前にできるだけ早く治療を始めることが重要である。

2 診断およびグレード分類

診断はしこりの一部を顕微鏡(針生検 ニードルバイオプシー)で比較的簡単に診断がつくが、
切除後検査機関に依頼し、肥満細胞ステージ分類などを行い治療方針を検討していく。

3 治療選択肢

肥満細胞腫に対する治療選択肢としては、外科療法、放射線療法、化学療法、あるいはこれらの療法の併用がある。
外科処置が可能な部位にある腫瘍が細胞診によって皮膚肥満細胞腫と診断され、
また予後を不良とする指標がない場合は、広範囲外科切除が適応になる。
腫瘍が外科切除の適応にならない場合(切除ができない箇所や予後を不良とする指標がある場合)と、
転移がある場合は、手術前あるいは外科処置の代わりとして化学療法および(あるいは)放射線療法が適応となる。

  ○ 外科療法(マージンについて)

一般的に「癌」というものは大きくなることはあっても縮むことはない。
ところが肥満細胞腫は縮むことがある。
縮小する為に、飼い主も獣医師も皮膚病を疑ってしまい、癌の発見と治療が遅れてしまうことが多々ある。
小さなしこりの段階で見つけたにも関わらず、
実はそのしこりの下にも、たこの足のような触ってもわからない塊を作っていることもあるため、
外科的治療の際は、充分なマージン(余白 3センチ以上)をとっての切除が望ましい。
しかし、最近の研究では腫瘍外側方向2cmのマージンと1筋膜面の深さで肥満細胞腫を切除した時の
組織マージンについて検討されはじめている。

  ○ 放射線療法

放射線療法は、切除が不完全であった低グレードあるいは中等度グレードの肥満細胞腫に対する標準的な
ケア方法であり、ほとんどの症例で長期間の腫瘍コントロールが可能である。
放射線療法は、局所的に行う治療形態であることと、腫瘍の転移や遠隔腫瘍の形成を阻止はできない。

  ○ 化学療法

抗癌剤の投与は、肥満細胞腫の治療効果としては3番目の選択肢である。
しかし、外科、放射線療法は局所治療であるのに対し、化学療法は全身治療である。
適応例として以下があげられる。
遠隔転移がみられるもの・リンパ節転移がみられるもの・グレード3肥満細胞腫
多発性肥満細胞腫(基本的に3箇所以上)・外科的に不完全切除の例(再手術、放射線療法が不可能な場合)


n 反応率 完全寛解率 完全寛解期間中央値
プレドニゾロン単剤 25 20% 4% -
ロムスチン(CCNU) 19 44% 6% 79日
ビンブラスチン+プレドニゾロン 15 47% 33% 154日
9 66% 66% 621日
  (CLINIC NOTE 2005 特集 腫瘍2より) 
  上記データの各論文は統一された対照群で研究されていないため参考程度とどめるべし

P糖蛋白と多剤耐性について・・・
P糖蛋白はATP binding cassette(ABC) トランスポーターの一種であり、生理的には
血液脳関門、腎、副腎、肝、腸管などで生体外の異物を排泄し、生体を防御する膜輸送蛋白として機能している。
抗がん剤多剤耐性の最も一般的原因の一つとして、腫瘍細胞におけるP糖蛋白の発現が明らかになている。
腫瘍細胞にP糖蛋白が発現すると、受動的に細胞内に取り込まれた抗がん剤がATPをエネルギーとして能動的に
細胞外に排出されてしまい、結果として抗腫瘍効果が失われる。
P糖蛋白によって排泄される(基質となる)抗がん剤としては、
ドキソルビシン、ミトキサントロン、ビンクリスチン、シスプラチンなどがあり、これらの薬剤個々の使用暦がなくとも、
他の抗がん剤の使用により耐性を示すようになってしまう。
また、プレドニゾロンの使用もP糖蛋白の発現を誘発することが知られており、
化学療法開始前のステロイドの使用は診断を不確実にするだけでなく、この点においても使用を避けるべきである。
P糖蛋白(P-gp)の基質となる薬剤を投与する際には、
十分に注意し、強い副作用が認められた場合には他のプロトコールを用いることが推奨される。 
(CLINIC NOTE 2005 特集 腫瘍2より)


4 副腫瘍症候群

何よりも厄介な問題は、胃潰瘍、胃穿孔などの副腫瘍症候群である。
そもそも肥満細胞はその中に顆粒をもっていて、ヒスタミンとヘパリンと言う物質をふくんでおり、
ヒスタミンによる胃潰瘍やショック、ヘパリンによる血液凝固時間延長などの全身への影響も大きい。
これらの副腫瘍症候群で命に関わる場合も少なくない。
約50%の頻度で胃潰瘍を引き起こすと言われ、嘔吐を繰り返しタール状の下痢をしたりという症状が
出てきた場合は要注意である。
外科切除後、薬剤による治療(抗癌剤や、H1.H2ブロッカー等)・放射線治療を行うのが一般的である。

5 グレード 分類

肥満細胞腫は、悪性度(グレード)によって、3つに分けられる。
2005年米国のガン研究会で、グレードの5段階評価が検討され始めたという話も聞く。

  グレード1 高分化型
細胞質境界は明瞭で、核は整形で球形または卵円形。有糸分裂像はまれまたは存在しない。
細胞質の顆粒は大きく、濃く染色され豊富。好発部位は真皮内および毛包間に限定し
組織所見は、列状配列または成熟真皮コラーゲンで束ねられた小巣構造。

  グレード2 中間型
不明瞭な細胞質境界で細胞が密に詰まっている。核細胞質比は退形成より低い。
有糸分裂像は少ない。退形成より顆粒は多い。
好発部位は真皮下部または皮下織への浸潤または置換。
組織所見は、繊維血管性間質内紐状あるいは巣状配列。
間質は厚く繊維コラーゲン性で硝子化が起こっている部分を伴う。

  グレード3 未分化型
細胞充実度が高く、未分化の細胞質境界、核のサイズと形は不整。
有糸分裂像は頻繁。細胞質の顆粒の数は少ない。
好発部位は皮下織および深部組織の浸潤とこれらを置換。
組織所見は、密に詰まったシート状配列、間質は繊維血管性あるいは、繊維細胞性で硝子化を伴っている。

グレードが高くなるほど、再発・転移が多く完治が難しくなる。
診断後1500日生存率は、グレード1で83% グレード2で44% グレード3で6% だった。
  (J-VET 2005年6月号 犬の肥満細胞腫の臨床管理より)

6 指標となる検査項目

血液検査 (生化学およびCBC)
局所リンパ節の生検 (所属リンパ節生検は、肥満細胞腫が原発部位に限局しているかどうか確認のため)
胸部X線撮影 腹部X線撮影 (肥満細胞腫に対して治療を行う前に、共存疾患を有する症例をみつけるため)
超音波検査 (脾臓と肝臓のエコー構造を調べ、結節性転移を検出するため)
バフィーコート塗抹 (循環肥満細胞を検出するため)
骨髄吸引 (骨髄中の肥満細胞数増加を確認するため)
糞便潜血検査 (胃腸内の出血を確認するため)


2003年7月UP 2006年2月末 更新
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